前橋東照宮
ニチハ株式会社

Designer's Voice ~サイディングの可能性~

古の面影を残しながら
未来へとつなげる社殿の創造

Nichiha Designer's Voice vol.12

群馬県前橋市 神社前橋東照宮

神社にサイディングをご採用いただいた施工例をご紹介します。

  • 株式会社石井アーキテクトパートナーズ
    第2建築設計部 副部長
    吉岡 徹 様

『遺すために新しく』のコンセプトのもと覆い屋で社殿を保護するという新発想で改修

ニチハ

前橋東照宮を手掛けられた経緯について教えていただけますか。

吉岡

前橋東照宮が創建400年を迎えるにあたって、社殿を後世に残すことを目的に大改修を行うことになりました。 長い間、風雨にさらされて老朽化が進んでいましたので、どのような形で改修するのが最適なのか、何をどこまで残すのか、さまざまな方々と議論する中で、本殿はそのまま残すという結論になり、「遺すために新しく」というコンセプトのもと、本殿を「囲う」ことで後世に残すという現在の案に落ち着きました。

ニチハ

前橋東照宮は、いろんな変遷を辿って前橋に鎮座した神社らしいですね。

社殿の正面。拝殿にある2本の柱は、日光東照宮の杉を使用。

吉岡

江戸時代に川越で造営されたものが、前橋に鎮座したのは150年以上前の1871年(明治4年)とのことですが、創建そのものは江戸時代(1624年)らしいですからね。歴史のある建物であることは間違いないです。

ニチハ

本殿を「囲う」という方向が決まった後、建物自体については、紆余曲折はなかったのでしょうか。

吉岡

敷地全体の大きさは決まっているので、本殿の配置は概ね今ある位置に建てるしかありません。 本殿をまるまる納めるので、ある程度の高さが必要ということになり、大体の形状やボリュームなどが決まっていきました。前橋東照宮は創建400年の由緒のある建物には違いないのですが、市から重要文化財に指定されている建物ではありませんので、ある意味自由な発想で取り組めました。

ニチハ

前橋東照宮は覆屋の中に本殿を配置し、歴史ある本殿を保護しながら、幣殿と拝殿を新たに設けた斬新な社殿となっていますね。

夜の帷が降りた本殿。ガラス窓の奥ではライトアップされた本殿が浮かび上がる。

吉岡

コンクリートとミライア、木の軒天と異素材を組み合わせて、周囲とうまく調和できるよう意識しました。覆屋の中の本殿が映えるようなデザインを意識し、本殿のライトアップも考慮した上でデザインしています。

ニチハ

前橋東照宮は、歴史が古く、市民の方に親しまれた場所だからこそ配慮された部分もあったのではないですか。

楽歩堂前橋公園 公園内の主な施設

吉岡

前橋市民からすると、前橋東照宮は、七五三、結婚式、初詣など、節目の時には必ず訪れる場所です。しかもここは楽歩堂前橋公園の一角にあり、さちの池、臨江閣など前橋の名所がまとまっていて、桜の名所でもあります。 それこそ、私も若い頃、お花見の場所取りをしたぐらい身近な場所です。突然そこに出現する新しい建物をいかに周囲と違和感のないようにするかがテーマだったとも言えます。

ニチハ

本殿を建物の中に移動させる曳家を行ったそうですね。

吉岡

鉄骨を組み上げた時に本殿を納めてしまわないと、建てた後からでは難しくなってしまいますから。納まった時の土台も含めて高さを割り出し梁も高い位置に鉄骨を組み上げました。 下駄を組んで、曳家でジャッキアップして14メートルほど移動するのですが、最終的にそれを引き抜かなければならない。敷地に限りがあるので、何をどのタイミングで行うかが大切でした。

鏡面仕上げミライアだから生まれた本殿をを主役とした外観デザイン

ニチハ

前橋東照宮の外壁には、鏡面仕上げのミライアを採用いただきました。ミライアを選んだポイントを教えていただけますか。

横から見た社殿。ミライアに周囲の木々や空が映り込んで周囲の景観と調和している。

吉岡

外壁選びの基準は、周りの景色が映り込むもの。今回の計画では、本殿を主役に据えていましたので、外壁はできるだけ存在感のないものを選びたいと思っていました。 この規模の建物ができてしまうと、公園の中で違和感が生まれる。それを避ける手法として、外壁に周囲の景色を映り込ませることのできる素材を探していました。 早速、実際にサンプルを見せていただき、映り込ませられるかを伺ったら、ミラーのような鏡面フルグロス仕上げにより、行き交う人や周囲の木々が映り込み、景色と建物が一体となるコンセプトの外壁という話だったので採用となりました。

ニチハ

実際に出来上がった前橋東照宮ですが、周囲の樹木が外壁に映り込まれて、周囲の環境に溶け込みつつ、威厳のある外観になっています。夕映えするミライアとのコントラストも美しいです。

吉岡

周囲の木々に溶け込むよう、調和を意識しています。建物の外側はミライアを採用することで気配を消せたので、建物の内にある本殿を浮きたたせようということで、全てライトアップしています。 建物ではなくて、本殿が主役であるとアピールする意味もありましたね。

ニチハ

東西のサッシ部分の取り合いを工夫されたそうですね。

覆屋の中にある社殿。背後のガラス窓から差し込むと社殿が光に包まれる。

吉岡

光の入り方から計算しています。
「本殿に入った時に、光が直接入り込まないようにする。」「東から太陽が上がってきた時には、本殿に向かって光が差し込むようにする。」「お客様の方が逆光にならないようにする。」
そんな形で微妙に角度を調整しながら、光をコントロールしています。スリット窓が設けられていますが、そこでは光の加減を考えて光沢のないメモリアを選んでいます。 本殿の後ろ、一番奥がガラスなので、本殿の奥から光が入ると神々しくなりますよ。

ニチハ

建物の内側には、視覚的な効果を狙った工夫があると伺いました。

吉岡

室内に足を踏み入れた時、奥行きを感じられるようにパースペクティブなデザインにしています。建物自体が意外に小さいので、少しでも奥行きを感じていただけるよう、縦にスリットを入れるなどして、縦長による視覚効果を狙っています。 シンプルだからこそ、本殿を中心にお客様にどう魅せるか、いろいろ考えてあるという感じですね。

ニチハ

外壁にミライアをご採用いただきましたが、サイディング自体について、何か新しい発見はありましたか。

吉岡

それこそ昔であれば、サイディングは住宅の外壁の選択材料として考えていた自分もいたと思うのですが、今では耐火建築にも使えるとか、広がりを見せてきていますよね。 非住宅の分野で、逆にこれだけ種類のある外壁材なんてありませんから。鉄骨造で造るとすれば、これだけ種類が豊富で選択肢が広がるというのはすごい強みだと思います。

撮影:株式会社川澄・小林研二写真事務所